ウィズネイルと僕('87/英 監督:ブルース・ロビンソン)

ロンドンでルームシェアする俳優志望のウィズネイルと『僕』。調子はいいが意気地がなくトラブルが起これば『僕』に矛先を転嫁しようとするウィズネイルとの腐れ縁は、彼の叔父の別荘での田舎暮らしを境に変質していくこととなる。それは酒とドラッグにまみれながらも新時代を若者が夢見たヒッピー文化黄金の60年代最後の三ヶ月のことだった。
…『僕』にはなぜ役名が付いてないのか。それは寂寥感の漂うラストシーンで分かった気がする。俳優としての初仕事が決まり、髪を切りアパートを出て行く『僕』。どしゃぶりの中、駅まで見送るというウィズネイルの申し出を断り、あっさりと別れる二人。公園で飼育される狼(滅び行く種族の象徴)に向かってシェイクスピア劇の台詞を朗読した後にウィズネイルは雨霧のむこうに消えていく。『僕』の青春時代とともに。
主人公のふたりともまるでファッショナブルでもクールでもなく、あまつさえホモセクシャルを隠そうとしない叔父からの積極的なアプローチさえ上手くさばけない始末。職安からの給付金をあてに暮らす彼らの様子をスクリーンで見ていたら、いかな階級意識からの差別とはいえ、客としての利用を断ったティールームの主人たちの気持ちも分かるように思えてくる。ルックスも行動もいまひとつ決まってない彼らにしかし自分は親近感とかすかな痛々しさを持つ。期限が切られたスタイルへの挽歌。この作品が、東京のミニシアターのクロージング上映に選ばれた事に合点がいく。