読書について

19世紀ドイツの哲学者、ショーペンハウアーの晩年の著作『余録と補遺』から三篇を採ったエッセイ集。書籍にまつわるアフォリズムで成り立っているが、比喩を多用しつつ直截にものを言うスタイルは、今読んでも印象が鮮やか。現代日本の「ら抜き言葉」問題を思わせるシラブルを省略する当世風記述についての執念を匂わせた警鐘は、まるで政治問題を語るかのような真剣さ。それよりか抽象度の高い"売れ線本"の書き手と評論家に対しての批判においては、先祖の仇のようにその信念のなさをなじる。とにかくが全力で読者に相対するだけに、むしろこれは「読書なんてやめておけ」という主題なのではないかと疑いが首をもたげてくるが、読み通していくと(それでも読書は行うに値する)という着地点に無理なく到達するので、なるほどドイツ哲学界一の名文家といわれる片鱗を知った次第です。他の著述も読んでみたい。その時は、この版と同じ鈴木芳子さんのリズミカルな訳で。