マリー・アントワネットに別れをつげて('12/監督:ブノワ・ジャコー)

手持ちカメラで撮られるバスティーユ陥落の前後の数日間の描写は、着古した色合いのある装飾過多なドレスや多少曲がっているようにもみえる鬘の主たちの惑い怯えながらもふだんの宮殿生活を平常心を保って続けようとする様子を淡々とあぶりだす。ここまで、ロココスタイルの人々に親和性を感じた作品は果たしてあっただろうか。まさに払拭されようとしているきらびやかな時代を、それでも続けようとする年配者たち、遅れを取らずに逃げ出そうとするグループ、どちらにも演出上の差異は付けられず、ただただ、去り往く時代を見送る静けさのみが最後に残る。王妃の朗読係を勤めたヒロインが、敬愛していた王妃に裏切られた形で交わした最後の会話中での「自分は言葉の専門家です」という宣言が、一つの解釈のよすがとなる。誰もが、誰でもなくなる時代の幕開けの開放感と虚脱感。それでも、全体をうっすらと覆うユーモラスさの為か、どっちつかずな後味よりも間口の広さを感じさせる感触が勝っているのが非常に好もしかった。