連載時に断続的に読んで以来、初めて単行本で通して読む事となった。これは、しかしまとめて読んだ方が理解を妨げられづらい。というかあらためて、微妙でうつろいやすい世界や心情を描くための、繊細な手法でもって描かれた作品だと実感した。状況の変遷もはげしいが、それにともない(紛れもなく部族筆頭の戦士として独り立ちしつつも)まだまったく若い少女である
ナウシカの精神も時に荒々しいまでに強く、そうかと思えばたわんだ枝が折れそうなほどに弱まる。そのリアルさは、作者が敬愛するという
ル・グィンの著作群にも似ている。古代の超科学技術(
放射能と思われる『毒の光』を撒き散らし、空間を歪めて高速飛行しながらも人格さえ持つ
巨神兵の禍々しさには震えがきた。漫画でないと味わえない質の。)に潜む驕りや、相も変わらず私利私欲で戦争する個人それぞれの愚かさなどを自分の影として受け容れていく
ナウシカの成長の旅路は、「
ゲド戦記」における未来の大魔法使いゲドのそれともイメージが重なる。しかしアフター・3.20であり、アフター・3.11であるいま、何があろうと現状を“現実”としてありのまま生きていく事を是とする
ナウシカの姿にはただの感動という単純さではなく心揺さぶられられるものがある。人々を生かしていくためだけに、真実を知った者としてあえてウソを付き続けるほどの覚悟。
ジブリアニメではけっして見られない宮崎ヒロインの姿が、そこにはあった。日本SF上に屹立する、言い尽くせない傑作。なお、空中戦の箇所はミリタリーマニアとしての悦びが隠しきれてないのもまた素晴らしい(笑)