獣の奏者エリン#43「獣ノ医術師」

ターニングポイント回。あるいは最終話よりも重要かもしれない主題エピソード。評価を最初に言ってしまうと、シリーズ構成上の瑕疵が出てしまったAパートは肯けない出来だが、そこで膿をだしきってしまった事もあってオーラスへと向けた展開の布石としてのBパートはまあまあ。…エリンがリランに“裏切られ”て指三本を失ったのは、これは誰のせいでも情勢の急変のためでもない。単純に、動物を擬人化して取り扱う姿勢を専門教育を受けてきたはずのエリン本人がやめようとしなかった事、そこにあるというのが一般的な視点だと自分は思ったので、エリンのみならず王宮近辺の使者まで瀕死の目に遭わせておきながらも、施設の責任者であるエサルがまったくエリンを叱責もせずあまつさえ指を失いリランと隠遁生活を送れなくなったエリンへの同情まで見せるという愁嘆場シーンには、ほとんど目を疑った。制作者の考えていることが分からなくなったのである。エリンをあくまで受難者であり、社会の被害者として描こうとするなら、最低条件としてエサルはじめ学舎の人間たちがエリンをかわいそうな存在として受け入れているとしておくべきだったと思う。母の刑死により重いトラウマから固定観念を持つようになったエリンを、どうしてもいたわってしまう。エサルの劇中における行動理念がそこにあるならまだ理解はできたんだけどね。しかし教師となった後のエリンの描かれ様は土台が相当にふらつき、彼女の特殊な能力の高さを強調するにしか至ってなかったように思えてならない。自分の不満はそこ。…このアニメはめずらしく、女性を主体的な主人公としてとりあつかっていると2クール目までは考えていた。けどシリーズ構成がどうも巧くいっておらず、なおかつ制作企図から(成長を終えたエリンがまとうであろう)大人の女の具体的なイメージを感じ取れないどころか、(現時点の迷える乙女であるところの)心に傷を負った少女が置かれるであろう微妙な状況を視聴者に自然に感情移入させられる形で描く技量が足りてなかったのはかなり残念。…もうここまできたら、せめて国家存亡ドラマとしてカタルシスのある展開を期待するに留めたいと思う。