ゴールデン・マン

ゴールデン・マン (ハヤカワ文庫 SF テ 1-18 ディック傑作集)

ゴールデン・マン (ハヤカワ文庫 SF テ 1-18 ディック傑作集)

表題作が原案である「NEXT -ネクスト-」の公開(一部の設定除いてほぼ別物らしいが)を受けての再刊本。原本短編集を二分冊した後半(「まだ人間じゃない」)を先に読んでしまったのだけど、こちらの前半の方がラインナップとして充実している事、さらには編集者の注記と作者のまえがきが掲載されていてどちらもディック世界の本質をズバリと表現している点からいっても順番に従って手に取るべきだったと後悔。ディック作品がシリアスでありながらもユーモアに満ちていること、そのユーモアの源泉は理不尽な世界への憤りにあることが自然と理解できる構成になっていて、まさにSF作家そのものでありながら易々と純文学へと股にかけるディックの底力が理解できる仕上がり。ベストを選ぶとすれば…テレパスの世界と共感という一般能力とを平行して描いた『小さな黒い箱』かな。人の思考行動様式が変わる瞬間の静かなダイナミズムがたまらない。