拷問者の影(新しい太陽の書 1)

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)

ウルフ作品ということで今回もまたついつい身構えつつ読んだ節もあったものの、ほぼ杞憂に終わった。特にSF色のほのめかしが本格的に出てきて、なおかつ主人公の旅の高揚が伝わる中盤からはグイグイ読み進めてしまった。早く続き読みたい。でも前半にあった、拷問の詳細は結構きつかったなあ。「ハーフブーツですか」「フルブーツだ」とか実際の対象者を徒弟への現地学習に使ってるの。この世界における拷問が一種紳士的に、反面システマチックに行われることが独裁者統治の説明になってるものの、結局は苦痛をあえて長引かせる死刑にすぎないわけで中世おそろしか(別に地球の過去が舞台じゃないんだけど)と感じざるを得なかった。と同時に、戦闘犬をこっそり癒す章の結部には誰かが再びあの犬を戦場に出してやればいいと純粋に祈る描写があり、かの時代の心性の真摯さに打たれもする。かように、ウルフは冷たくも奇妙に優しい小説を著す。精緻でいて混沌とした世界の美しさを映すように。それにしても主人公セヴェリアンには徹底して死の影がまとわりついている。自身の処刑の術をギルドを離脱して後も誇りに思って止まないし、彼が手を差し伸べるのは死の烙印を押された者(捨てられた瀕死の使役犬、ほぼ死刑判決を受けたに等しい貴婦人、おそらくは死から甦った-直前の記述で老人が探していた妻の再構成体?-記憶のない美少女)だけ。