猫の泉

猫の泉 (日影丈吉選集)

猫の泉 (日影丈吉選集)

初版付録の小冊子によれば、日影丈吉は食事学という耳慣れないジャンルの専門家でもあったそうで、ことにフランス料理の作法に造詣が深かったとのこと。なるほど、この巻のテーマが“エグゾティシズム”であることも手伝ってかここにきて日影小説の文体の明晰さが際立つ感じだ。「吸血鬼」なんてまるで翻訳短編そのものな味わいだもの。表題作は、ファンタジー色かつ無国籍色が強いながらも東欧のどこかの廃れた街の雰囲気があって映像的。「ある絵画論」も中欧で迷子になったかのような煙に巻かれた感が心地よい。