クリムゾン・ピーク('15 アメリカ/監督:ギレルモ・デル・トロ)

寒風吹きすさぶイングランドの荒地に立つ城。赤みの強い粘土の採掘で知られたその山頂では、積もった雪の上にすら紅い水が染み出す。どれだけ拭っても消えない血のように。
そんな不気味な場所へ嫁入りするのが純真率直なヒロインであるイーディスなわけだが、前半部は彼女が生まれ育ったアメリカの都市部の状景なので、気が滅入るばかりの映画にはなっておらず、20世紀初頭のブルジョア社会を描いたコスチューム・ムービーとしても相当にゴージャスなボリューム。
テーマの面からも、オカルトを用いた「恐怖」とムードを抑制を効かせながらもギリギリに高める「恋愛」という二方向から攻めており、観ていてまったく飽きる事がなかった。イーディスの心を傷つけて別れることを強いられた英国貴族のトーマスが、演技を続けながらも切々とした想いを言葉に混ぜ込む屋敷階段でのシーンは圧巻というか陶酔の一言。ノーブルかつミステリアスな雰囲気を持つトム・ヒドルストンの本領がもっとも発揮されたのがこのカットではないかと思う。
悪役である人物に関しても、その情感の描かれ方には突き放した印象はなく、善悪をあえて問わずに人間の精神力の大きさへの讃歌になっているようで後味がふしぎとさっぱりとしたロマンテイック・ホラーになっている。それにしても寝巻き姿で波打つ金髪を解いたヒロインの清純な愛らしさよ。ミア・ワシコウスカはそういえば『嗤う分身』でも最高にかわいかった。