セイバーキャッツ(全5巻)

この作品を知ったのは今からおおよそ20年前、角川書店のマルチメディア部門がおそらく最も精彩を放っていた頃に発行されていた雑誌『コミックGENK』を立ち読みした際にだった。ヒロインであるチカが寂しさを吐露するくだりが非常に印象に残ったのは、たぶんそれまで自分が読んだことのある山本氏の作品の多くがまとっていたコメディの雰囲気と似ていなかったためかもしれない。あるいはもっと違う理由かもしれない。どちらにせよ、こうして物質の形を取らない電子書籍という機会を経て、この作品にふたたび出会えた事は二重の意味で自分には喜びとなった。独自性の高い拳法漫画であり、なによりスマートかつコンパクトな青春映画のように普遍性のある人生物語だ。成熟した大人にしか象られない世界がここにある。