アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

映画「ブレードランナー」を初めてVHSテープで観てからもう20年になるだろうか。ようやくその原作小説を、電子書籍版のセールという機会を得て読むことになった。基本設定と大まかな粗筋は共通しているものの、登場人物の差し引きとキーキャラクターの差し替え、クライマックスをどこに重点配分するかといった重要な箇所に原作からの変更があり、読んでいる間は(思いのほか別物だなあ)とずっと感じていた。しかし最終頁に来た頃には、不思議とデッカードの容貌は主演のハリソン・フォードとダブり、人間性の在り処とその不確実性というテーマの軸のブレなさに映画版における原作への繊細な尊重ぶりを知ることができた。映画版の陰影の深い映像美を堪能するも佳し、原作小説のユーモアが全編に渡って敷きつめられた神学問答を楽しむも良し。蜘蛛の脚の数にどんな意味を見出すかはその人次第。