イノサン

フランス近代において、首都パリの処刑人を代々勤めてきたサンソン家の四代目党首であるシャルル=アンリ・サンソンの少年期の様子から始まる、無垢と汚濁の物語。緻密に置かれた描線からは遺骸にたかるハエの羽音や人々の食い散らかしが腐る匂いまでも漂ってきそうだが、主人公はまるで黒髪の天使といった風情で、中性的ですらある。劇画の域まではギリギリ届かない微妙なバランスの絵の硬質な美しさだけでも読む価値のある歴史絵巻。…シリアスなギャグとしての藁人形置き換え描写は、この写実性の高い絵柄でないと十全に機能しないと思う。