地上の記憶

地上の記憶 (アクションコミックス)

地上の記憶 (アクションコミックス)

作者の白山宣之氏についてはお名前すら知らなかったが、大友克洋氏が装丁を手がけた遺稿集ということで手に取った。(20代の頃のクセが残っているのか)自分は、80年代に席巻したニュー・ウェーブ系漫画家に関わる新刊情報にはいまだに妙に弱い。
前半収録の二作は地方都市に住む若い女性の生活を端整に切り取って、日常の淡い叙情を描き出した短編。どちらも夏を舞台としているのがノスタルジーをまっすぐに伝えてきて、まるで親戚のひとりを眺めているような地に足の着いた体温に似た読後感を持つ。後半には時代ものと南洋活劇ものを収録。山本おさむ氏による解説コメントを抜粋すれば、『彼は「七人の侍」から自分の好きになれない要素を抜き去り、好きなところだけを集めて白山版・短編「七人の侍」を再構築したいのである』という方法論は戦国時代をユーモラスに描いた『ピクニック』でもっとも発揮されていて、そこにある従来から逆転した発想の伸びやかさ、それでいてそれだけを目的とはしていない大らかな人間への視線は、この作品を読めばすぐに分かるような気がした。