台風がゆっくり、自転車並の時速で日本列島の中心を横切っているのだそうだ。当地にもまもなく最接近という宵のうち、それでも空気はどこかすっと天井が抜けていた。「ああ、これから夏なのだ」とふいに梅雨明けと錯誤して内心ひとりごちるが、しかし暦はすでに長月に入っていた。日焼けをむやみに避けるうちに、夏は始まっておらず終わりもしなかったのかもしれない。あてどない予感だけがループする …