2021年11月に観た映画まとめ

蒼穹のファフナー THE BEYOND最終章 ('21 監督:能戸 隆)

今回は特に三話のなかでの内容振り分けが明確で、第10話で最終決戦の前の感情のやりとり、第11話で思い切りの戦闘描写(大スクリーンに見合った圧巻さで実際の尺以上に感じた)、第12話でエピローグという構成になっており、それが大変ファンにとってうれしい丁寧さが感じられるものだった。新国連軍の影が薄いのと、敵対関係の意味がつかみにくいといった欠点もあるのだが、それ以上に十数年も全力でシリーズに取り組んでくれたスタッフに感謝と尊敬を感じるフィナーレだった。

 

ほんとうのピノッキオ ('19 イタリア/監督:マッテオ・ガローネ)

グロテスクでダークなファンタジーへのセンスと、子供たちと目線を同じくした世界への前向きな希望(もちろん現実的な注意点も添えて)とのバランスがよく、自分の好みに合っていた。猫耳放浪マンや魚人間、かたつむりおばさん等の造詣がじつに楽しい。

 

TOVE ('20 フィンランドスウェーデン/監督:ザイダ・バリルート)

トーベ・ヤンソンの何物にも囚われない精神はいかにつかみ取られたかを描いた映画だが、実際の生涯に厳密に沿っているわけではない。本作の中心ストーリーとなっているヴィヴィカへの激しい恋情とそこから生まれる葛藤とは、あくまで監督によってクローズアップがされた上での描き方だ。しかしそれでも再会したパリの夜でのトーベの告白のシーンは大変美しいと自分は思った。これまでは男女で描かれてきた構図が、技巧的に押し拡げられた意味を感じ取ったからかもしれない。ラストの、トゥーティッキが撮ったと思われる自由なステップで踊るトーベのフィルムが忘れられない。人はかくあるべき。

 

ミス・マルクス('20 イタリア・ベルギー/監督:スザンナ・ニッキャレッリ)

カール・マルクスの末娘エリノアの、父の遺した理念に生きようとしながら旧態依然とした内縁の夫との関係との矛盾に苦悩する姿を、パンクロックの挿入歌や室内で一人狂ったようにモダンダンスを踊るという異化効果を狙った演出で描きだす。エリノアが父の実像を知った時の苦悩をもっと共感できるようにするには、彼女が思想にどれだけ入れ込んでいたかの描写を増やすべきと感じた。結末の自死直前の静かな雰囲気は印象が強い。

 

アナザーラウンド('20 デンマークスウェーデン・オランダ/監督:トマス・ヴィンダーベア)

教師仲間の中年男4人が、勤務中にあえて血中アルコール濃度を上げて逆に人生がうまく行くかどうかを悪ふざけで実験しようとする。16歳から飲酒が許されているデンマークでは、夫の飲酒癖にウンザリしている妻でも昼間のカフェで白ワインをオーダーするし、欧米でもアルコールに対する姿勢は様々だと劇中の雰囲気から知れた。酒は人生の潤滑油…というよく云われる真理の、暗い面と明るい面を表裏一体で表現したラストに、人間社会のままならなさが淡々と表れていた。風采も意気も上がらない序盤のマッツ・ミケルセン、うってかわって軽快な即興ダンスを披露するシーンと、眼福な映画でもあった。