2021年10月に観た映画まとめ

Summer of 85  ('20 フランス/監督:フランソワ・オゾン)

未成年審判の行方と危ういひと夏の同性愛の結末とを追わせる並行エピソード構成で、思いのほか娯楽性が高かった。突然の事故死によりひとり遺された形の少年が亡き恋人との激しく儚い日々を小説仕立てにするという語りのフレームを作ることで、恍惚としたカメラワークへの感情移入のエクスキューズをつくる。なぜって、思い出はみな美しいのだから。映像自体が放つ企図された調和の力と、ストーリーへの興味を呼ぶ間口の広さとを同時に達成しているそのレベルが本当に高いと思う。ところで80年代風俗の映像での再現はこれまでチープな軽薄さが鼻につきがちだったけど、この作品では色彩や光線のコントロール加減なのか逆にシックで眼に違和感がない。それと関連して、ロッド・スチュワートのヒット曲「Sailing」は発表年からいうと劇中でもやや古びた歌であったのではないかと思うが、捉え方が複合的に為されているために響きが新鮮に感じられる。エッジが利きつつまことに懐の深い青春映画。

 

DUNE/デューン 砂の惑星  ('21 アメリカ/監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

大画面に見渡す限りの砂漠が大写しになり、虫の羽ばたきを模した飛行機からほとんど宙づり状態になった主人公たちの眼下には、禍々しくも神々しいブラックホールのような口を開けた巨大な砂蟲が蠢く。これだ、久しく無かった映画体験がここに蘇った!初日にわざわざ来た目的がこれなんだよ~と座席でひとりご満悦。室内の色彩と照明を絞った撮影の荘厳さ、隠された神秘の力を持つ教団へのフェミニズムの暗示も好みに合って楽しめたが、肉弾アクション演出がおしなべて平凡に感じたのが惜しかった。繊細な死に際を見せた父公爵、精神の強さとしたたかなタフネスを見せて息子とともに生き抜いた母導師。キャラクター配置は王道なようでいて、現代性に通用する斬新さが感じられた。

 

最後の決闘裁判 ('21 イギリス・アメリカ/監督:リドリー・スコット)

第一章は古風な騎士像に近い素朴だがガサツさも否めない夫の視点。第二章は宮廷の人心掌握術にも長けた洗練の友人騎士の視点。第三章は夫の不在時にその友人からレイプ被害に遭った妻の視点。つまり段階を追って近代化された観点にシフトしていき、中世騎士道という男尊女卑の象徴としてモチーフに選ばれた時代の様相を再構築していく事により、現代にも残るジェンダーの不均衡へと意識を誘う構成になっている。そして過剰なまでに臨場感を込めた、決闘裁判の一騎打ちの目を覆いたくなる野蛮さ。だが数秒ごとに形勢逆転する先の読めなさに、同時にまったく目が離せない。嫌らしいまでにあらゆる技巧を叩き込んだこのリドリー・スコットの気迫は、はたして本当に現代のクリエイターに求められるジェンダー意識の高まりに素直に帰したものと捉えてもよいのか?あまりにもすべてが複雑にかつ濃密に構成されて調和している。恐るべき映画で、三時間弱の上映時間をまったく長いとは感じなかった。…それにしても第二章と第三章、寝室のある塔での主観の移動による演技の違いをいちいち演出してくる執念深さ(褒め言葉)には本当に感じ入った。