燃ゆる女の肖像 ('19 フランス/監督:セリーヌ・シアマ)
振り返った時、振り返らなかった時。どちらにも同じ余韻が篭っている。オルフェウスが冥界との狭間で見たのは、過去の未練か現在に根差す愛情か。答えは当人たちしか知り得ない。彼女の心が確かに燃え上がる瞬間を、画家の眼は焼き付けた。波の音で始まり、儀礼の室内楽で終わる。意識されつくした光線と音響に浸される映画。
(ネット配信にて視た映画)
皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ ('16 イタリア/監督:ガブリエーレ・マイネッティ)
とにかく、イタリアの現代社会描写がリアル。特に主人公が住む部屋の空虚で暗く、荒廃した雰囲気はまるで実際にその湿った匂いまで嗅いだ気分になる。彼が共に行動することになる娘が受けていた実父からの虐待も、細かくセリフに上らないことでかえってその深刻さが伝わってくる。初めは主人公同様に、アニメのヒーローに我が身を同一視するバカバカしさに気乗りしないが、ラストシーンにはすっかり変わっていた。海外で日本のスーパーヒーロー・ロボットアニメが人気を博したことに改めて思いを馳せる。ファンタジーな怪作にしてしっかりとリアルと向かい合った力作だった。