2019年11月に観た映画まとめ

 

楽園 ('19 監督:瀬々敬久)

現実に起こった複数の事件を元にしたと思われる小説を映画化。同監督の前作「菊とギロチン」と比べると展開が粗かった(日本の集落共同体では直接的な人狩りリンチの例はあまりないと思う)りして、なるほどインディペンデントと大手配給の違いはこのあたりかと考えたりした。さて、この映画の胆は若い二人の関係の変遷にあり、男の方はすわストーカー化かと一瞬身構えるものの会話シーンを重ねる事で適度な距離感に落ち着き、なるほど希望をここに置くかと感じた。それにしても佐藤浩市をこうキャスティングするかという衝撃は強い。『もう燃えていたから』じゃあないんだよ。

 

ボーダー 二つの世界 ('18 スウェーデンデンマーク/監督:アリ・アッバシ)

定職に就いているもののどうしようもない疎外感を持つ者と、社会の外にいながらに既に悩んでいない者。精神の種類をおなじくする二人が出会ってさあどうなるかというストーリーだが、ここにあえて性別を攪乱させた設定が入ってくるのが表現最前線。着陸の仕様のなさは印象付けられるが、多様性を重んじてフレンドリーな夫婦に見舞われた悲運の決着は劇中で描いてほしかった点。踏みきり不足マイナス0.5。

 

ピータールー  マンチェスターの悲劇 ('18 イギリス/監督:マイク・リー)

長引く不況にあえぐ労働者階級のデモ集会が弾圧の惨劇に見舞われるまでの過程を描くことで、200年経った今も続く階層社会のひずみを直視する試み。19世紀のイギリス風俗だけでも見応えがあった。キャスティングも絶妙なバランスで素晴らしい。最後に驚いたのは「ピータールー」が正確な地名ではなく『ウォータールーの戦い』をもじったものだということ。新聞記者のノリはいつの時代も変わらない…

 

蒼穹のファフナーTHE BEYOND 第二章 ('19 監督:能戸 隆)

半年のスパンを経てのビデオグラム先行上映。第一章から一気に死の影が濃くなり(そうか、自分が観にきたのはファフナーというシリーズだった)と思い知らされた。そして相変わらず、積み重ねた設定ギミックを組み合わせ展開させる手際が見事だ。

 

 ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん ('15 フランス、デンマーク/監督:レミ・シャイエ)

帝政末期のロシア、貴族の少女サーシャが北極探検に出向いて消息を絶った祖父を探す冒険に出る。

とにかく面のフラットさと色彩調和を活かした画面が全カット美しく、一時間半ずっと続く眼福にため息がもれそうになった。くわえて刻々と移る情勢、次々に訪れる苦難、あわせて仄かで微笑ましいロマンスの予兆まで。映画に求めるすべてがここにある。サーシャが確認したかったのは祖父の生存以上に彼の誇りの在りかだったと言外に分かる終幕も大好きだ。