2018年7月に読んだ本まとめ


光 (集英社文庫)

光 (集英社文庫)

久しぶりに読んだ国内作家の長編小説。あらためて、想像で日常を描く筆力に驚かされたのはリアルかどうかを海外小説よりもダイレクトに判別しやすいからだろう。同名の映画を先に観たことがきっかけで手に取ったわけだが、メインの登場人物が一人省かれていること、出来事の順序が入れ替わっていること、エピソードの省略があることを除いてかなり忠実な映像化だったことが分かった。そしてラストシーンも大きく異なっているが、印象の違いは驚くほどない。希望と絶望、愛と憎悪は表裏一体という以上に絡み合っているという認識をあらたにする傑作だと思う。輔の気持ちの優しさを見抜いた人物がいたという箇所にほんのりと救いを感じる。
レモン畑の吸血鬼
レモン畑の吸血鬼

レモン畑の吸血鬼

邦訳前作「狼少女たちの聖少女寮」と設定上のファンタジー性はそう変わらないが、読後感にシビアさが増したように思える。明治期における日本の製糸工場を舞台モデルにした『お国のための糸繰り』は一読をお勧めしたい。『エリック・ミューティスの墓なし人形』はローティーン男子のいじめ文化が淡々として逆にリアルで、ささいな行動の取り返しのつかなさが切ない。
洞察の起源
洞察の起源: 動物からヒトへ、状況を理解し、他者を読む力はいかに進化したか

洞察の起源: 動物からヒトへ、状況を理解し、他者を読む力はいかに進化したか

哺乳類の思考や感情がどれぐらい人間に近いのかを少しでも知りたくて手に取った。専門的な文体が自分には難解すぎたが、たとえば鹿の飼育場での観察例で、屠殺個体のストレスを無くすためになるべく気取られないように給餌場で後ろから撃つなどの場合でも、他個体に大きな動揺は見られなかったなどのエピソードの積み重ねを得ることはそれなりに意味があったと思う。
ファンタジーのつくり方
ファンタジーのつくり方

ファンタジーのつくり方

専門学校で教鞭を取る講師による欧米と日本国内とを視野に入れたファンタジー作品の系統概論。分かりやすさと専門性のバランスが良く理解が進んだ。応用編としての、「千と千尋の神隠し」の作品解釈は新鮮な視点と語り口。