2018年5月に読んだ本まとめ

最後に鴉がやってくる

ネオレアリズモの影響が見られる自然主義的な作品からもどこか独特のユーモアが漂い、パルチザン時代の経験を素にした作品からは死という大現実を超えたあざやかな詩情が舞い立つ。初期からすでにカルヴィーノカルヴィーノだったのだと再確認。
肺都
肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)

肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)

「アイアマンガー三部作」完結巻。ロンドンから疎外されていたアイアマンガー一族は追いつめられてついに女王のいる中心部へと攻め込む。しかしより印象が強いのはアイアマンガーの御曹司と恋に落ちた少女ルーシーの卑しさと紙一重な孤軍奮闘ぶり。これも最前線のヒロイン像だなあと思う。スタイルは児童文学の色合いが濃いが、読んでいるあいだ常に埃にまとわりつかれ舌にべっとりとしたものがこびりつくような不衛生な感覚を覚え、そのギャップが忘れがたい。
流れよ我が涙、と警官は言った
流れよわが涙、と警官は言った

流れよわが涙、と警官は言った

遺伝的に他人より優位に立つ約束された運命を持った人気歌手が、目覚めたら自分の栄光が消えうせた世界に置き去りにされていた。いつにも増して不思議なディック式導入部だが、不遜なきらいがあるものの情が無いわけではない主人公が女性めぐりをする中で、彼女らが背負った孤独や不安に触れる様子はビルドゥングスロマン風にも感じられる。SFとしてさえも強引ながら物語にはきっちりオチは着くので、構成的にディック長編の中ではまとまりがいい方だと思う。自分は、主人公が昔の女に知り合いのペットうさぎの話を聞かされるくだりが好きですね。あそこは真髄中の真髄だと思う。