夢幻諸島から

時間勾配という現象によって、空間にすら歪みが生じるために精確な地図が製作できないという架空の地域『夢幻諸島』の数々の島を舞台とした連作短編集。ガイドブックの体裁を為した中に、奇妙なエピソードが挟まり、それらが徐々にうっすらと関連付いていく点にミステリとしての愉しみが起こるが、それも結局は前後する時間という霧の壁に消えていってしまう、そんなもどかしさが結局残る。まるで、親しいと思っていた他人の全身像をいつのまにか心の中で失ってしまうかのように。一貫して、イメージの人なのだなとプリーストという小説家の特色に感じ入ってしまった。