サラの鍵('10 仏/監督:ジル・パケ=ブランネール)

ナチス占領下のパリで行われたユダヤ人の一斉検挙「ヴェル・ディヴ事件」をもとに、少女サラの運命とそれを追う現代の女性記者の人生とを交錯させる構成。典型に沿ったストーリー展開ではないのでカタルシスは得にくいタイプの映画だったが、ラストシーンではなぜか自然に泣けてきた。誰かの残した思いを辿りながら集団的悲劇を記憶し続けることの意味(若い同僚たちに「ドイツ人じゃなくてフランス人がやったのよ」と伝える主人公の静かな口調が強く印象に残る)。サラが捨てずに持ち続けた戸棚の鍵にモチーフを託して"真実を目のあたりにする勇気はときに自分自身に刃を突き立てる"という時代に関係なく誰にでもあてはまる心の衝撃をあぶりだす構成の巧みさ。特殊な条件下の圧倒的な悲運を描きつつも、普遍する人間が持つ強靭さも同時に描いている。『戦争の悲劇』というジャンルに括られない作品。