アルゴ('12 米/監督:ベン・アフレック)

イスラム革命が成立した1979年のイランで起こったアメリカ大使館人質事件での実話をもとにした、CIA局員が主人公のサスペンス作品。派手な特殊効果を用いたアクションシーンに頼らず、全編をつらぬく緊迫感でもってぐいぐいと鑑賞者を引張っていく、昨今では珍しい部類に入る企画の特色性が十全に楽しめた。強いて言えば、主人公の家庭にまつわる悩みの挿入が少々本筋から浮いていた気もするが、それもなんのその、最終的には"映画という文化への賛歌"で纏め上げられている。この作品にはもう一つテーマがあり、それは"複雑に絡み合った大状況を個別に突破できるのは人間同士の信頼だけ"(出番が少なく心理描写は詳しくは描かれてないものの、結果的に外国人を助けたイラン人家政婦・サハルは印象に残る登場人物)というもの。素晴らしいのはクライマックスにおいて、その双方が絡み合い融合されて一つの前向きな勢いへと昇華されること。『記念にあげるよ』と渡されたロケハン持ち込みのSF映画絵コンテをまんざらでもない顔で受け取る様子の革命防衛隊の若者たちの姿は、(救出作戦の中身に懐疑を示していたインテリ大使館員の会心のアドリブ長広舌という直前のシーンとともに)それを端的に示していたと思う。"映画"にはそういう力がある。誰でも、自国を背景に撮影するために来訪した外国人に冷たくあたるのは難しい。なお、全編を通して美点であったのは敵対側として置かれたイラン人のキャラクターとしてのヴァリエーションの豊かさ。革命の最中でシュプレヒコールを挙げたり同胞を私刑として吊るし上げるイラン人という描写ばかりでなく、おもてむきは十分にソフトな文化省の役人、デスクから電話で指示を行う英語を介する将校タイプなど、人種偏見を助長するステレオタイプな印象からは極力距離を置いている配慮を感じた。