大いなる眠り

大いなる眠り

大いなる眠り

村上春樹による新訳をもってしても洒脱になりきれていない比喩表現が多い気がしたのは、私立探偵マーロウシリーズ第一作というポジションのせいだろうか。前半はやや読んでいてまだるっこしかったが、中盤に登場したとある男の運命をマーロウが看取ってからは立石に水のようにテンポよく感じられた。行動をうながす心理的動機スイッチの在りかの繊細なオリジナリティ。そこにこの長編の読みどころの最たるものがある気がする。訳者本人による解説は、チャンドラーが成し遂げたパルプ小説史におけるエポックへの敬意に満ちていて、最高のデザートがコースに付いてきた気分。