ボウエン幻想短篇集

ボウエン幻想短篇集

ボウエン幻想短篇集

傑作は後半に固まっているので要注意。
なかでも、当時のオカルト趣味流行の熱気がうかがえる「林檎の木」が素晴らしい。ボウエンの所属していた保守的な中流社会への描写と、思い切った幻想世界への飛躍とのなめらかな接続ぶりが見所。その胆力ある筆致に惚れ惚れするが、収まるところに収まりすぎた着地点はその分だけ物足りなさを感じるきらいも。その意味では「あの薔薇を見てよ」の境界をはみだしたものと、それを忌避する側との双方への厭わしさを、微妙なラインで描いた緊張感の方が完成度は上といえるかもしれない。「五月はピンクのサンザシ」における会話文の用い方の巧さも強い印象。ボーナストラック的な付録があり、書誌資料として各書序文やエッセイの収録がファン必携の一冊として心にくい配慮になっている。