ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

英国諜報部「サーカス」にて蟄居の身となっていた主人公スマイリーが、身分復帰ともっと抽象的な何かを狙って組織の裏切り者をあぶりだす任に着く。その仕事のありようが、一般的なスパイもので期待されるドンパチとは無関係な書類の再確認や、関係者への聴取といった地味な様子だったのが新鮮だった。それでも退屈な読みものになっていないのは、スマイリーやその同僚たちが個人として求めている、形も名前も持たない"何か"こそが小説の主題となっているから。淡々とした文体で構成される詩的な物語で、この原作だからあの傑作映画『裏切りのサーカス』が生まれたのだとよく分かった。