占領都市 TOKYO YEAR ZERO II

占領都市―TOKYO YEAR ZERO〈2〉

占領都市―TOKYO YEAR ZERO〈2〉

戦後史に残る象徴的な大量殺人『帝銀事件』を小説へと本歌取りすることで編み出される十二の章。それぞれ視点を受け持つ主人公が変わり、事件当事者の時間軸に沿った呟き、被害者たちの声が束ねられた輪唱、謡曲隅田川」に託すことで昇華された遺族の歎き等、フォーカスは自在に動く。そこに手法としての少々のぎこちなさは感じるが、イギリス人作家が、アメリカが深く捜査に関与したともされる占領下の日本での事件を題材として小説を描くという事象においては、かえって重層的な厚みへと転じている。事件にほぼ直接的に関わった者同士が結婚するくだりでは、ダワーの有名なノンフィクション「敗北を抱きしめて」が脳内でリフレインした。弱者は弱者として、それでも前向きに生きていくことを選びとらなければいけない。著者が作家の責任として共感した境地が、そこには浮かび上がっていた。なお、ミステリ小説としてはアメリカとソ連それぞれの諜報員が語り手となった章が秀逸。情感との兼ね合いのバランスの意味でも同じく。