KOTOKO('12/監督:塚本晋也)

ひとつだけはっきり理解できたのは「塚本監督は、ぽってりした唇で眼がぐりっとした長身で黒髪の細い女性が好みなんだなあ」という事で、これは今回主演のCoccoと以前の作品『悪夢探偵2』に出ていた市川実日子、『双生児 -GEMINI-』のりょうとの共通点。感覚が鋭敏すぎて外界のさまざまな刺激に悩まされる女性の姿がとにかくビビッドで、なおかつ保護欲を誘われる痛々しさに思わず画面の向こう側へと手を伸ばしそうになる。保育園の鉢植えをけっとばすようなイカレ女の一面をも描かれているにもかかわらず。長引くマタニティ・ブルーの間にも、世界のさまざまな惨劇がテレビニュースから流れ出てくる事に病んでしまっているシングルマザー。いとけない息子への濃密な愛が、時に暴発し、時に唄うように穏やかに順繰りに描かれる筋立ては、ドキュメンタリーのようだが、塚本監督自ら演じる中年作家が主人公の世界に闖入することによって急激に物語はフィクションの色を帯びていき、そのドライヴ感が興行作品としての危うい綱渡りぶりを引っ張っていく。その行く末をどう解釈するべきかが、鑑賞者に委ねられた点であり、最終的な評価の焦点にもなると思ったが、ラストシーンの一つの“結果”が明らかにされている時点で、それをつきつめて考える必要は別にないのではないかなあという気もした。彼の存在は、あえて言えば熊本県で実施された“赤ちゃんポスト”を人格化したもの…のように捉えれば…というのはあまりに論理の飛躍だろうか? ともあれ、各カットの美しさが(あるかもしれない)構成の難を助けてあまりある、どこか忘れがたい作品。Coccoの時にたどたどしい演技にも、笑いと切実さが同居するような厚みがかえって見えてくる。歌唱シーンの声量にはさすがに圧倒され、同じアパートの住人はたまったものじゃないだろうなと気の毒になるぐらいだ(笑)