ギヴァー 記憶を注ぐ者

ギヴァー 記憶を注ぐ者

ギヴァー 記憶を注ぐ者

一見ユートピアと思える整然とした中規模コミュニティの隠された一面が、12歳の少年の視点にて徐々に明かされていく。基本プロットの印象は、最大公約数の幸福追求を見据えたル・グィンの「オメラスから歩み去る人々」の発展形。ジュブナイル・ジャンルとして本国で刊行されただけに、えぐみのある描写は用いられていないがその事が逆にすぐれた寓話性の要素になっている。感受性の象徴として鮮やかな色彩を表現する数々の筆致が、共同体の安全のために喪われたものを切なく輝かす。幾通りも解釈できる物語のしめくくり方も、テーマに重みを与えている。