「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」('11/監督:村田和也)

劇場版でしかやれない構成、作画を見せてくれたという意味で、さして原作ファンでもない自分も大満足。これまでのハガレンアニメの中ではダントツに好み。整ったキャラ絵とはまた違う方向、つまり動きとそれに伴ってやわらかく変化するフォルム取り(まろやかな髪先、主線の太さ等)を優先したアニメートは、日本アニメらしさとは違うようでいて、日本アニメでしか見られないもの。この国がたとえ滅びても、日本アニメの動かし手が絶滅することはないだろうと自分は思わず確信……誇大妄想閑話休題。そんなこだわりの作画ぶりが、しかし演出的に浮いていないのは脚本構成がおそらくハリウッドアクション映画のメソッドに則ることにより娯楽性を高めているからで、五分に一度はダイナミックな場面が置かれているので最初からノンストップかつ飽きることがない。ストーリーはミステリー仕立てでもあり、オーパーツをめぐる伝奇もの要素も入っているが、テーマとしては力への欲求の克服と肉親の情愛というオーソドックスさ(そういえば、物語の中心舞台であるテーブルシティへは高架鉄道で出入りするのだが、それが映画の幕開けと幕引きにそれぞれガジェットに用いられているのもアナクロさが好ましい)なので、ハガレンをまったく知らない人でも問題なく楽しめるはず。物語の趨勢を決する主人公はエルリック兄弟よりもむしろヒロイン配置のジュリアだから。後半のつるべ落としな展開も、付いていけないこともない程度の複雑さ。ただ一つ苦言を呈するとすれば『鮮血の星』に国家再興を頼ることの意味をあとちょっとだけ明確にエドたちに示しておいてほしかったかなと。あの箇所だけは、ハガレンに触れたことのない観客には分かりづらかったかもしれない。