ハルムスの世界

ハルムスの世界

ハルムスの世界

伝聞からのハルムスの風変わりな人となりや収容所で不明なままの死で幕を閉じた反骨の生涯、実は子供嫌いであったけれど政治体制のためやむなく童話レーベルで書いていたという事情に引いては作品理解の助けとなる旧ソ連の文化背景の解説を、短編の合間に挟んだ編集によりこの不遇にして根っからの自由人であった不条理作家の肖像が立体的に浮き上がる企て。意味のなさに意味が宿ることを信じつづけて綴られたと思しき作品群と、周囲から浮き上がっていたファッションで悪童たちにつきまとわれるのが常だったという作家の実像が重なり、そして理不尽そのものの圧政体制に中で消えていく後ろ姿がフェードアウトする時、「書くこと」「書きつづけること」の意味がつきつけられるようで、思いがけず悄然とした。