20世紀の幽霊たち
スティーヴン・キングの実子である(短編「ブルックリンの八月」でリトルリーグの試合に付き添われていた男の子だろうか?)事以上に、新人離れした完成度の高さが評判を呼んでいる処女短編集。日本語版はイギリス版とアメリカ版の合本スタイルのお得さ。さて、お父上とくらべると純文学寄りな傾向が時折あるのが一番の違い。ホラー作品の中でも、テーマ構築を受け持つ部分のリアリズム描写に並々ならぬ注力、そして力量が感じられて、それがエンタティンメント面とまったく齟齬なく溶け合っているあたりになるほど才能ある底力を感じさせられる。その意味において、冒頭に置かれた『年間ホラー傑作選』(生涯かけて愛した対象に間接的に裏切られるという事象そのものが怖すぎる…と同時に半分は主人公が自ら招いた結果であり、原因には元妻からうけたトラウマが深く関係しているという蓋然性)とほぼトリを飾る形の中篇『自発的入院』(これもまた少年たちの少年ゆえの過ちとそこに到るまでの蓋然性に自然さがある作品。あとビジュアルイメージの鮮烈さも特徴的)の完成度が特に高いように感じた。反面、マジックリアリズム的かつメインストリーム性のある作品はというと、ホラーものよりもやや力強さやオリジナリティに欠けているかも。寓話のようでいながらやはりリアリズム描写が秀逸な『ポップ・アート』はすごく面白いし、少年期をとりとめもなく追想する味わいの『うちよりここのほうが』は印象にやたら残るけど、『寡婦の朝食』や『おとうさんの仮面』あたりになると実験作の域を出ていないような。とはいえ、そんなこんなをひっくるめてもこの短編集のバラエティの豊かさはちょっと他にない読み応え。加えて、若手作家にはどうしても逃れられない枷である過去の先輩作家からのインスパイアを、隠そうとはしていないのに軽がると超えているかのような表現者としてのしなやかな姿勢がたのもしい。