2017年に完結した漫画5選

白暮のクロニクル

全11巻。見た目が少年期で止まった不老不死者と健康優良児の厚生省ノンキャリ女性とがバディを組み、国家のゆるい監視下にある吸血鬼が絡む凶悪事件を追う。吸血衝動をそれなりに制御できるが陽光の下での活動は生理的に無理といった独自の設定の詳細さ、戦中・戦後の社会や風俗描写の一貫性、そして黒澤明映画のような重厚さをエンタメの軽快さで包んだドラマの良質さ。地味なようだが、日本漫画の一つの到達点とすらいえる傑作。
「フイチン再見!」
全10巻。私はあつかましくもクリエイターに感情移入してしまうクセがあるのだが、この漫画の後半は読みながら泣き通しだった。特にギャグ漫画家として大成した赤塚不二夫の孤独と苦悩を、天才ではないと自認しながら同じ満州帰りとして共感も持つ上田トシコから見たエピソードが哀切。赤塚の自分自身を削る生き様は、トシコの元夫や亡父のそれと本質的に同じだから。昭和という時代へのロマンと総括とを、一人の女性漫画家の生涯を通してやり遂げた作者の構成力に絶句してしまう。そして、戦前婦人の型から外れた女性キャラたちの生々しさは、時代設定を同じくする作品でもなかなか見られないのでは。
「青猫について」
全2巻。みんな戦争がいかんのや→いや戦争の前からくるっとるっぽいな→うん戦争ただのきっかけだね!と決して多くないエピソード中で人間観がみるみる変わっていく得がたい体験を得た。つぶらな瞳とおさげの堕落論
「彼方のアストラ」
全5巻。少年誌週刊ジャンプここにあり。ウェブ媒体だけど、でもやっぱりここにあり。SF漂流少年少女ドラマ。ストレートに熱い感情を描き出す作者の持ち味が最高に活かされたのは、あるいはWeb連載という形態だったからかもしれない。歴史修正主義への危険信号というメッセージ性もサブテーマに入っているあたり、本当に真正面からの姿勢だなと感じた。
「たそがれたかこ」
全10巻。みっともなさもひたむきさも、ギャグとしてではなく、突き放す対象としてでもなく。45歳の女が憧れて、焦がれる。とうとう出てきたエポックメイキング作。なかでもコミュニケーションに奥手な人間が、メディアを介して生まれた恋愛ファンタジーを身近な人間に狙わずして投影し恋に落ちてしまうという、あまり語られる事のなかったリアルな情動が巧みに構成されているのが素晴らしい。
次点1:「ギャングース
全16巻。犯罪の裏側にある現実の貧困について、抽象度の高い人体というクセのある絵柄でもって飄々と。
次点2:「エリア51
エリア51 15 (BUNCH COMICS)

エリア51 15 (BUNCH COMICS)

全15巻。中盤にかけて秀逸回が頻発したのに比べると最終エピソードはやや物足りない。ベストはやはり白雪姫編。あと世界各地の神話の主神たちが惜しみなく出てくるのにはいつもワクワクさせられた。