今年始まったり知ったりした中から選んだ漫画10本

(この記事はツイッター企画『俺マン2017』参加連動です)
「インコンニウスの城砦」

同人即売会での発表ののちAmazonストアで電子書籍として販売。読みきりだが雑誌連載数ヶ月相当の分量と内容の濃さがある。作者の漫画にはこれで初めて触れたが、温かみのあるペンタッチと人間を突き放してみる視線とのギャップに一発で魅了された。科学と魔法の区別がつかない世界観も唯一無二の印象。
「堕天作戦」
堕天作戦 1 (裏少年サンデーコミックス)

堕天作戦 1 (裏少年サンデーコミックス)

たそがれた世界でエルフと人間が延々と戦争をする中、不死の主人公が地獄めぐりをするような内容だが、基本的にユーモラス。ルーティンされた魔法の描写が面白い。乾いた作風によりかえってキャラたちの狂気が際立つ。
「マゲとリボルバー
主役の刑事と侍のコンビが理念の違いからなかば相反しながらも事件を解決していく。人の中身は100年経とうがそうそう変わらないという描写の堅実さや、エンタメからバランスの外れないポリティカル設定とで安定して読ませられる。
「アダムとイブの楽園追放されたけど…」
https://babymofu.tokyo/「ベビモフ」連載。月一更新。
宮崎夏次系はうまいこと自らサブカル臭を抜きつつある。ファンタジーコメディであり、育児あるある漫画でもある異色作。
「ペリリュー 楽園のゲルニカ
太平洋戦争屈指の激戦地とされる南洋のペリリュー島。日本は天国のような場所と思っている島民と主人公が会話するシーンが忘れられない。天国はいつも瞬時に地獄へと裏返る。これは戦時を描いた漫画であり、同時に日本の平常を描いた作品でもある。
ゴールデンゴールド
前作『刻刻』からだいぶん味わいは軽くなったが、人間の性質の底をいきなり見せてくるヒヤッとした作風は相変わらずキレがいい。
「いちげき」
幕末に農民から有志を募って佐幕派が編成したという暗殺突撃隊。刀の抜き方から始める訓練の様子が興味深い。今回は原作付きなこともあって松本次郎の天井知らずなデッサン力にストレートに情念が載っている。
「ワニ男爵」
擬人化動物ものがたりとグルメ漫画との合わせ技。紳士なワニの小説家と自己中心的なうさぎの小僧との微妙に噛み合わない会話がポイント。しばしば人情風味のオチがつくあたり手堅い。画面は端正さと荒削りさが同居していて受け入れやすい。
「五佰年BOX」
五佰年BOX(1) (イブニングコミックス)

五佰年BOX(1) (イブニングコミックス)

箱庭細工を手にした大学生の青年が、他者の運命にはからずも介入してしまう戸惑いでサスペンスとミステリーをまわす。これも会話のテンポやコメディ描写が抜群のアクセント効果を持っている。
残酷な神が支配する
電子書籍化されることで名作に触れる機会が格段に増えたが、今年はこの大河シリーズの衝撃が忘れがたい。萩尾望都の天才的構成力と圧倒的にオリジナルな描写性、そして美的センスの高さとが、この漫画を単なる社会派作品に留めなかった。同じような展開の頻発にさえ意味がある凄まじさである。
(次点)「エルフ湯つからば」
ジャンプ作家の西 義之が初めて他社雑誌(モーニング・ツー)に登場。読みきりだが現在三作まで発表されている(最新作は来年一月)。この人はあるいは純ファンタジー作品、それもストーリーがなるべくゆるやかなタイプが一番合っているかもしれないと思わされる入浴漫画。単行本発売を待望。

猫が教えてくれたこと('16 トルコ/監督:チェイダ・トルン)

ふっくらとフェトジェニックな街の有名猫、愛くるしいとしかいいようのない子猫のオンパレード。東西の文化が交わるといわれるトルコはイスタンブールで、神と人との世界を往来する自由な存在・猫へのまなざしから見えてくる世界のまぶしさとはかなさ。船に猫や犬と乗る男性がつぶやいたように、かれらを心から愛おしいと思える瞬間こそが掛け替えのない、永遠へと繋がる場所。

2017年に劇場で観た映画ベストテン

映画館に足を運んで観たのは総計23本。リストは日付の新しい順ですが、多少前後しているかも。

猫が教えてくれたこと(’16 トルコ/監督:チェイダ・トルン)
ソウル・ステーション/パンデミック(’16 韓国/監督:ヨン・サンホ)
セブン・シスターズ(’16 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー/監督:トミー・ウィルコラ)
ブレードランナー2049(’17 アメリカ/監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ
パターソン(’16 アメリカ/監督:ジム・ジャームッシュ)
残像(’16 ポーランド/監督:アンジェイ・ワイダ)
ディストピア パンドラの少女(’16 イギリス/監督:コーム・マッカーシー)
ハートストーン(’16 アイスランドデンマーク/監督:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン)
変態アニメーションナイト2017(オムニバス)
怪物はささやく(’16 アメリカ・スペイン/監督:フアン・アントニオ・バヨナ)
未来を花束にして(’15 イギリス/監督:サラ・ガヴロン)
Sharing(’14 監督:篠崎誠)
フランコフォニア ルーヴルの記憶(’15 フランス・ドイツ・オランダ/監督:アレクサンドル・ソクーロフ
サラエヴォの銃声(’16 フランス、ボスニア・ヘルツェゴビナ/監督:ダニス・タノヴィッチ)
牯嶺街少年殺人事件(’91 台湾/監督:エドワード・ヤン)
SPRIT(’17 アメリカ/監督:M.ナイト・シャマラン)
お嬢さん(’16 韓国/監督:パク・チャヌク)
夜は短し歩けよ乙女(’17/監督:湯浅政明)
五日物語 3つの王国と3人の女(’15 イタリア、フランス/監督:マッテオ・ガローネ)
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(’16 アメリカ/監督:ティム・バートン)
ダゲレオタイプの女(’16 フランス・ベルギー・日本/監督:黒沢清)
エヴォリューション(’15 フランス/監督:ルシール・アザリロビック)
沈黙 サイレンス(’16 アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ)


…この中からベストテンを選びます。…

1.ソウル・ステーション/パンデミック(’16 韓国/監督:ヨン・サンホ)
アニメでも演出の空気感はまったく損なわれずに現実社会の写し鏡となっている。現在時点での自分のベスト韓国映画にしてベスト・ゾンビ映画
2.未来を花束にして(’15 イギリス/監督:サラ・ガヴロン)
クライマックスに置いた現実の事件への距離感が抜群のバランス感覚。未来への形のない希望に突き動かされる歩兵(ポーン)の誇りと悲壮。
3.セブン・シスターズ(’16 イギリス、アメリカ、フランス、ベルギー/監督:トミー・ウィルコラ)
姉妹たちが特殊部隊に一瞬の隙をついて逆襲する瞬間のカタルシス、あの泥臭いアクションたまらなかった。
4.サラエヴォの銃声(’16 フランス、ボスニア・ヘルツェゴビナ/監督:ダニス・タノヴィッチ)
表向きだけ保った崩壊寸前のホテルで起こる発砲事件。いつも事のはじまりは後から回想される。無駄を極限まで削ったストイックさがスリルをより際立たせる巧緻な作品。
5.五日物語 3つの王国と3人の女(’15 イタリア、フランス/監督:マッテオ・ガローネ)
人生の長さは五日のごとし。この映画のラストほどの哀切を知らない。怪獣の造形のアナクロさがいっそ典雅で良い。
6.ハートストーン(’16 アイスランドデンマーク/監督:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン)
夕餉の前、薄闇と玄関の明かりの狭間で少年達は心に爪をかすめあう。若さの堅さと柔らかさに胸を締め付けられる映画。
7.パターソン(’16 アメリカ/監督:ジム・ジャームッシュ)
日常が奇跡だということを今世紀の私たちは知ってしまった。ならば何度でも書きつけるしかない。この世界への愛しさを
8.牯嶺街少年殺人事件<デジタルリマスター版>(’91 台湾/監督:エドワード・ヤン)
光、風、土。
9.ダゲレオタイプの女(’16 フランス・ベルギー・日本/監督:黒沢清)
希望も愛も自分だけの幻想なら、もう車を走らせる場所はどこにも残されていない。そこは亡霊さえも棲めない不毛。
10.沈黙 サイレンス(’16 アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ)
息絶えたその時に何かを握らせてくれる伴侶と、外側から浄化してくれる炎の助けを借りて、ようやくそこで信仰の意味を知る。とどろく海の恐ろしさ、さけびつづける草の寂しさ。ほんとにどうしてスコセッシはこんなに日本と日本人を知っているんだ?

・なお、当方地方在住のため封切時期は東京基準から遅れること多数です。