バーダー・マインホフ 理想の果てに('08 ドイツ・フランス・チェコ/監督:ウーリー・エデル)

ドイツ赤軍「RAF」の若者たちの軌跡をドキュメンタリー・タッチで追う。かつての大戦の最中に吹き荒れたファシズムへの反省と、冷戦構造の中で大国のエゴイズムが吹き荒れる時代背景のなか、若者が行動によって示そうとした理想が、社会に存在する避けえない夾雑物によって変質し、煮詰まっていった果てに体制側との暴力の応酬が“手段”ではなく“目的”と化していった様子が客観的に描かれている。バランスのよい視点の取り方のために、RAF中心メンバーたちが戯画化されるでもなく、象徴化するわけでもなく人物像が浮き出されており、また彼らを見えない手として支持する60年代から70年代にかけての西ドイツの空気も自然に醸されていた。
過激な行動に走っていく娘の公判のあとで、記者の取材にこたえる上品で知性にじむ両親が戦後リベラルの風をごく自然に受止めていたり、第二世代のごく若いメンバーが無関係な人物を作戦ターゲットとして巻き込むことの多数決挙手の流れに逆らえなかったりする時、実社会の中で理想を追うことの難しさを考えさせられる。

「ゲーム・オブ・スローンズ 第6章 冬の狂風」全10話視聴完了

先の第5章ではどことなく迷走の気配が感じられたため、不安の方がやや大きい状態で迎えた、初めての本国アメリカとの完全同時放送。結果は、期待以上という意味で予想を大きく裏切られた!
大河小説を原作としていることからくる文芸の仕込み(因果応報的なラニスター家の転落、アリア・スタークの心身が同時並行する修行がどさまわり劇団の女優との出会いにより完成する等)、映像化の最大の意味合いとなるスペクタクルを担う、血みどろで泥まみれな集団戦や大建造物の崩壊。「ゲーム・オブ・スローンズ」というシリーズのすべての魅力が濃縮されたとともに、原作ではまだ明確にされていないジョン・スノウの出自の謎もいよいよ開陳! 人気作ゆえのプレッシャーを見事はねのけて、山場を乗り切ったと製作サイドに拍手喝采したい。これで、物語の終わりどころが見えて残りの2章分を安心して楽しめることも分かったのだから。

ベスト・ストーリーズII 蛇の靴

ベスト・ストーリーズII 蛇の靴

ベスト・ストーリーズII 蛇の靴

雑誌『The New Yorker』の数十年の歴史の中で掲載された中・短編小説の中から選りすぐった日本オリジナルシリーズの二冊目。都市生活の機微を洒脱に描き出す作品が多い中、巻末にもっとも長いページ数で掲載される「マル・ヌエバ」(マーク・ヘルプリン)の印象の強さに魅了された。南米を思わせる架空の独裁国家の風光明媚さと人が形作る社会の理不尽な歪つさとの、あまりに鮮やかすぎて憎みきれないコントラスト。波と風がつくる渚の水紋が無二であるように、それは文学でしか表せない。(まったくの余談ながら目的としていたジーン・ウルフの作品がたった二ページの掌編だったのには意表を突かれた…)