[一般書籍]今年出会った書籍5選

発行が昨年だったものもいくつかあります
ドリフトグラス(サミュエル・R・ディレイニー)

「エンパイア・スター」の眩いネオ・スペースオペラを発表当時の印象からおそらく遠くない新鮮な訳文で読めたことを、感謝してやまない年だった。
ジーン・ウルフの記念日の本(ジーン・ウルフ)人々が真に興奮して求めるものは何なのかを冷然と突きつける「ビューティランド」、何をやっているか理解できないマネーゲームに熱中したあとで気がつけば黄昏の薄闇の中、帰宅したドアの前に黙って座る見知らぬ黒衣の男と相対するという人生の縮図をゴブラン織りのごとくまとめた「フォーレセン」。ウルフのユーモアは悪意スレスレでほんとうにホラー小説より怖い。
プリティ・モンスターズ(ケリー・リンク)
プリティ・モンスターズ

プリティ・モンスターズ

現実のようなファンタジー、ファンタジーのような現実。ところでケリー・リンクはすでにアーシュラ・K・ル・グィンの後継者の位置に立ったと思う。
あなたを選んでくれるもの(ミランダ・ジュライ)人は他者を、思考の/社交の/比較の/表現の、素材として捉えているというのが真実かもしれない。しかしそれを認めてもなお、誰かと新たに知り合い、中途半端にでも親交を結ぶことから意味と意義は消えない。たとえそこにたくさんの戸惑いがあったとしても。ジュライの不屈の不器用さに温かみを感じてしまうドキュメンタリー本。
スペードのクイーン/ベールキン物語(アレクサンドル・プーシキン)
スペードのクイーン/ベールキン物語 (光文社古典新訳文庫)

スペードのクイーン/ベールキン物語 (光文社古典新訳文庫)

現代に舞台を置き換えてもそのまま通用するピカレスクロマンの傑作として、ほとんど新作小説の枠で読めるのはなかろうかというテンポの良さとスピード感を兼ね備えた新訳版。民俗語りオムニバスである「ベールキン物語」はパロディ化したようなつくりを意識して読むとなお楽しめると解説文で教えられる親切設計な編集。

[漫画]今年出会った漫画5選

第一巻の発行が昨年だったものもいくつかあります
たそがれたかこ(入江喜和)

たそがれたかこ(6) (KCデラックス)

たそがれたかこ(6) (KCデラックス)

45歳、二度目の、いやもしかして初めての青春。形も実りもないからこそ支えになってくれる。そんな恋があってもいいじゃないか。たとえ想う相手が若者で、自分の方はしがない中年女でも。甘いばかりでない展開の中で時にぶははと笑わせてくれる、人生賛歌。
蝶のみちゆき(高浜 寛)
蝶のみちゆき (SPコミックス)

蝶のみちゆき (SPコミックス)

明治、出島も近い長崎の遊郭。泰然としてみえる几帳太夫には誰にも話していない秘密があった。
容赦のない結末が、かえって作品に硬質な輝きを与える。また几帳太夫の美しさは東洋女性の骨格の破綻ない理想化として必見。
螺旋人同時上映(速水螺旋人)
連作である「代書屋レオフリクの,」で顕著なように、ユーモア基調の内側に戦時で生活する人々の信念や希望といった堅牢な側面が根付いてるのが感じられる。私も願わくば、銃弾とびかう中で人々の心をつなぐような文字列を綴り続ける人種でありたい。
トレンチフラワーズ(香深村れん)
トレンチフラワーズ 1 (BUNCH COMICS)

トレンチフラワーズ 1 (BUNCH COMICS)

塹壕戦×メイド部隊×魔法。軍隊の組織としてリアルな面に、地に足の着いた戦術描写、メイド兵士たちのキャラクターの立ち方とマルチプルな魅力の作品。
HaHa(押切蓮介)
モーニング連載。自分にとっての初押切作品。自分の親にも若い頃があったと、その等身大の人物を想像し共感できたときに、第二の親子関係は始まるのでありましょう。エピソードの中で、母が初めての職業として就いたバスガイドが見かけよりずっと辛い業務だとしみじみ述懐するくだりは本当に印象に残った。あと悪運を呼び寄せる血脈回で大笑い。