日本の動物愛護活動の母ともいうべき存在だった野上ふさ子さんが亡くなったという報に、ご著書によって蒙を解かれた一人としてしばし悄然。今までありがとうございました。安らかにお眠りください。

最底辺のポートフォリオ

最底辺のポートフォリオ

最底辺のポートフォリオ

  • 作者: ジョナサン・モーダック,スチュアート・ラザフォード,ダリル・コリンズ,オーランダ・ラトフェン,野上裕生,大川修二
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2011/12/23
  • メディア: 単行本
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バングラデシュ、インド、南アフリカそれぞれの国で一日あたり二ドル以下で暮らす何十もの世帯の家計の動きを長期に渡って聞き取り調査することで得られた数々のデ−タから、低所得層には需要がないとされていた金融サービスの柔軟な在り方の可能性を探る手掛かりのための書…といった趣。その語り口からデータ検証の着眼点がいまひとつはっきりと自分には見えてこなかったのだが、調査対象である個々の家庭のプロフィールはなかなか詳細に紹介されていてそこに読み応えがあった。同じ所帯に住む家族の要求から将来の必要経費を護るために、信用ある近所の他者に預かってもらう「マネーガード」や、受給者同士が講をつくって年金を持ち寄り、一人にその総額を手渡すという手順を順繰りにまわす-- 等の低所得者ならではの"手作りマイクロファイナンス"といったシステムの紹介箇所が非常に印象に残った。

野性の蜜

野性の蜜: キローガ短編集成

野性の蜜: キローガ短編集成

ボルヘスが活躍する以前の南米において短編の名手とされていたウルグアイ生まれの作家の、日本における紹介書。30篇にも及ぶ短編集としてはなかなか重厚な一冊だが、構成が淡々としているためにやや読み通すのがつらかった。小説本編よりむしろ小気味よい附録『完璧な短編小説家の十戒』(これはブログにさえも応用できそうな完成度の文章論なので、書き写してパソコンモニター横に貼っておきたいとさえ思う)や、作者のプロフィールを余すことなく伝えた解説の配置を工夫するなどの編集上の企みがもっと欲しかった。作品の総合的な印象としては、死を運命論で扱う重苦しい雰囲気と、密林地帯のまとわりつくような粘り気のある空気とが渾然しており、色鮮やかさがかえって目をくらますような幻想性を持っている。しかし個人的に好みだったのは、ブエノスアイレスを舞台とした都会的な『愛のダイエット』、『シルビナとモント』の方。これらにはユーモアが多少はしのびこむ余地が許されている。辺境を舞台にしたものの中では、異例として死を変則的に克服する形で終幕する『フアン・ダリエン』にカタルシスを覚える。