2019年4月に読んだ本まとめ

いまファンタジーにできること

いまファンタジーにできること

いまファンタジーにできること

 

( 2011年からの再読)

ル=グィンが実際に講演した内容を書籍化したもの。動物が主役の名作を解析しながら、子ども向けの小説の効用を説いた章で、ファンタジーが評論家や世間から軽んじられている不当性を明示する根気強さに彼女の芯を見た気がする。

 

 

言葉人形 

 「白い果実」三部作や「シャルビューク夫人の肖像」など日本でも強いインパクトを海外文学ファンに残してきたフォードの十数年ぶりの邦訳新刊にして初の日本オリジナル短編集。徐々に幻想度の強い設定にスライドしていく構成がフォードの精緻な作品世界に合致しており、自分がここ数年読んだ中ではもっとも完成度の高い一冊になっている。最も好みなのは自伝的な語り/騙りの『<熱帯>の一夜』、ヒロイックファンタジーの体裁でありながら無敵の剣士であることが耐えがたい呪いであると示す『珊瑚の心臓』。奇想があざやかな『巨人国』はフェミニズムを「ガリバー旅行記」に似たアイロニーで包んでおり、フォードの技巧が味わえる。

 

ウルクリーク橋の出来事/豹の眼 

アウルクリーク橋の出来事/豹の眼 (光文社古典新訳文庫)
 

 生と死が交錯する瞬間を描いた表題作は、ピアスという作家の本質をこの上なく端的に表明している。シンプルなのに何度も思い返してしまう。同じく南北戦争を題材にした『良心の物語』もおすすめ。

2019年3月に読んだ本まとめ

薄情 

薄情

薄情

 

 地方都市に暮らす、浮きも沈みもしないごくごく平均的な若い男を主人公に、彼の内面に起こるさざ波を描写する。殺人事件といった決定的な出来事はないものの、外から見るには分かりづらい地味なイヴェントの数々が、無数の市井の人々が持つ精神に思いを至らせる。これは地方に住む自分にとっては記憶に残る作品になりそう。

 

恥知らずのパープルヘイズ

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―

恥知らずのパープルヘイズ ―ジョジョの奇妙な冒険より―

 

 大河シリーズと化した漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第五部のスピンオフ作。読み口はライトノベルのそれで、主役のフーゴの鬱屈に比して案外にさらりとした雰囲気で章は進む。敵グループのキャラクターと能力のバラエティの幅広さは原作に劣るものでなく、また最終章の荘厳なビジュアルの喚起ぶりにはオマージュとしての質の高さがある。

 

オブジェクタム

オブジェクタム

オブジェクタム

 

 ファンタジーが少し入り込んでいるのかもしれないが、子どもが主人公であることで、その精神構造それ自体が幻想と現実との境界が淡いために判別がむずかしい。そこにこの作品の味わいが。小学生の放課後の時間、その体感の長さが印象的。

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

 制度に比して社会の実態が男女平等に追いついてない中を懸命に生きてきた主婦のキム・ジヨンの振る舞いがある時とつぜんおかしくなる。かつて周りにいて努力が報われなかった女性たちが憑依したかのように発語するジヨンは夫に連れられて精神科にかかるが、その主治医のカルテを擬して綴られているので非常にリーダビリティが高い小説になっている。旧態依然とした家族制度に縛られながらも自らの才覚で夫の凡庸さをカバーしてきたジヨンの母が、時に激高して娘たちを鼓舞する数シーンが感動的かつ痛切。訳者あとがきで“それでも日本に住む自分にはジヨンたち韓国女性がまぶしくて仕方ない”と綴っているが同意である。

 

第52回2019春調査

アニメ調査室(仮)さんにて開催中。以下、回答記事です。

 

2019春調査(2019/1-3月期、終了アニメ、63+4作品) 第52回

01,みにとじ,x
02,W'zウィズ,x
03,ラディアン,F
04,ケムリクサ,x
05,エガオノダイカ,F

06,けものフレンズ2,x
07,マナリアフレンズ,x
08,アイカツフレンズ!,x
09,デート・ア・ライブIII,x
10,ガーリー・エアフォース,x

11,revisions リヴィジョンズ,B
12,サークレット・プリンセス,x
13,おこしやす、ちとせちゃん,x
14,キャラとおたまじゃくし島,x
15,ブギーポップは笑わない,A

16,デュエル・マスターズ!,x
17,フライングベイビーズ,F
18,ぱすてるメモリーズ,x
19,モブサイコ100 II,x
20,おしりたんてい,x

21,えんどろ~!,x
22,火ノ丸相撲,F
23,キャプテン翼,F
24,賭ケグルイXX,A
25,五等分の花嫁,x

26,明治東亰恋伽,x
27,爆釣バーハンター,x
28,上野さんは不器用,x
29,ほしの島のにゃんこ,x
30,風が強く吹いている,S

31,約束のネバーランド,F
32,ドメスティックな彼女,x
33,荒野のコトブキ飛行隊,x
34,魔法少女特殊戦あすか,x
35,私に天使が舞い降りた!,x

36,不機嫌なモノノケ庵 續,x
37,ツルネ 風舞高校弓道部,x
38,とある魔術の禁書目録III,x
39,妖怪ウォッチシャドウサイド,x
40,ベイブレードバースト超ゼツ,x

41,グリムノーツ The Animation,x
42,転生したらスライムだった件,x
43,同居人はひざ、時々、頭のうえ。,x
44,宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち,z
45,ミッキーマウスロードレーサーズ,x

46,ソードアート・オンライン アリシゼーション,x
47,バミューダトライアングル カラフル・パストラーレ,x
48,レイトンミステリー探偵社 カトリーのナゾトキファイル,x
49,かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦,x
50,逆転裁判 その「真実」、異議あり! Season2,x

51,少年アシベ GO!GO!ゴマちゃん 第3シリーズ,x
52,ピングー in ザ・シティ 第2シーズン,x
53,3D彼女リアルガール 第2シーズン,x
54,あはれ! 名作くん 第3シリーズ,x
55,ねこねこ日本史 第3シリーズ,x

56,ピアノの森 第2シリーズ,x
57,キラッとプリ☆チャン,x
58,HuGっと! プリキュア,x
59,臨死!!江古田ちゃん,x
60,わしも wasimo 6期,x

61,雨色ココア SideG,z
62,BanG Dream! 2nd Season,x
63,B-PROJECT 絶頂*エモーション,x
64,(全8話) パパだって、したい,x
65,(全11+1話) マーベル スパイダーマン 第2シーズン,x

66,(特番) ポプテピピック TVスペシャル,A
67,(特番) ペルソナ5 Stars and Ours,x

 

<寸評>

「revisions リヴィジョンズ」B:1クールながらやれる範囲で世界観とキャラを描いてオチを着けた印象。慶作の鬱屈については描写がもっとほしかったが。

ブギーポップは笑わない」A:不穏と稀薄、現代都市の相反する要素を空気として漂わす事で原作世界を表現しているように感じた。ところどころでアクションにエッジさが加わり見ごたえがある。

賭ケグルイXX」A:第一期よりすべての面でパワーアップ。特に『扉の塔』前後編がすばらしい。今のご時勢でギャンブルの魅力をうたいあげる豪腕さよ。

「風が強く吹いている」S:スポーツものが苦手な自分でも毎回釘付けにさせられるクオリティと企画性のブレなさに舌を巻くばかり。あと駅伝アニメは史上初か?

(特番)「ポプテピピック TVスペシャル」A:粘土アニメが特に良かった。あとボブネミミッミver.特殊OP。

 

そうひょう:今期はかなり満足。ひさしぶりの当たりシーズンでした。

2019春期のアニメ視聴状況

さらざんまい (NETFLIX)

おもちゃ箱をひっくり返したようなキュートなアイデアの奔流を東京の下町地域でやるセンスが心地いい。

 

フェアリーゴーン (BS11)

監督とキャラクターデザイナーPA生え抜きでないだけに新鮮味を感じた。中田春彌のデザイン原案が非常にいい(人物以上に妖精の)。

 

キャロル&チューズデイ (NETFLIX)

(実はまだ視てない) 

 

鬼滅の刃 (BS11)

原作へのリスペクトが最大限に感じられ、繰り返しの視聴に耐える。

 

進撃の巨人3rd season(後期) (NHK総合)

 (未開始)

 

<前期より継続>

どろろ (BS11)

ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風 (BS11)

 

…今期は海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」最終章も視てます。

2019年2月に観た映画まとめ

メアリーの総て ('17 イギリス・ルクセンブルクアメリカ/監督:ハイファ・アル=マンスール)

夫が、ノリと感じのいいクズ男という感じでもはやコメディすれすれ(メアリーの妹と同じ屋根の下で不貞行為にふけった後『ふー、やっと落ち着いたよ』と戻ってくるシーンは傑作)。しかしおなじ男であるメアリーの父の誠実な人間性で、戯作バランスが取れているのであった。メアリーが、自分より器量も才能も劣るが調子のいい性格の妹に対して寛容すぎるのではというきらいもあるが、二人の絆を印象付けるクライマックスシーンはやはり胸を打たれる。そして父のアドバイスを忘れずにいた事で生まれるエポック作「フランケンシュタインの怪物」。彼女にとって怪物は自らを投影する対象だったのだという解釈は新鮮に感じられた。

 

イット・カムズ・アット・ナイト ('17 アメリカ/監督:トレイ・エドワード・シュルツ)

ワンアイデア系でインディペンデント色がストレート。自分はA24系のこのスケールの作品はあまり合わないかもしれない。寓話として解釈の少々の不透明さが残されている按配は良かった。

 

生きてるだけで、愛 ('18/監督:関根光才)

主演の趣里は、不器用で誤解されがちな役をするにはあまりに現代でウケが良すぎるルックス、キャラなのでは…というやっかみの入った違和感をずっと持ちながら観ていた。というか自分はもはやこういう青みのある映画を無心で楽しむには歳を取りすぎたのかもと痛烈に感じた。とはいえ、上手くなじめるかもと思ったバイト先でやっぱりのやらかしぶりは非常にリアルに痛いものだった。

 

(配信で視た作品)

新感染 ファイナル・エクスプレス ('16 韓国/監督:ヨン・サンホ)

 トレインサスペンスとゾンビホラーの合体。通常のアクション映画の二本立てぐらいのプロット盛り盛りぶり。それが大味になってない構成力の高さ。これは傑作と呼ばざるを得ない。最近の韓国映画は、主役級から外れる人々の一種不可解な心の動きを見せる展開が巧いが、この映画でも終盤に入る前にそれが訪れて、物語に深みを増している。

 

サスペリア ('77 イタリア/監督:ダリオ・アルジェント)

 70年代のモダンインテリアは子どもの頃に馴染みのあるもので、懐かしくも新鮮さもあった。カーマインレッドをテーマカラーとして、当時としてはショッキングな流血描写が封切り時の売りだったようだが、それも現代作品を見慣れた目には牧歌的にすら映る。ラストのヒロインの笑顔とか、あの後もどってきた他の生徒たちの心持ちを想像すると可笑しみがある。それでも、日常の陰の面への警戒心をあおられる演出は秀逸な事はわかった。

 

パディントン ('14 イギリス・フランス/監督:ポール・キング)

ジャングルの奥地で人知れず暮らしていた二足歩行で人語を解するクマが、あるきっかけでイギリスの街へと出てくる。そこで出会った個性的な一家に助けられて、一族のかつての知人を探すというプロットの中にふんだんにアイロニーの効いたコメディが入ってくる。パディントンの造型も可愛い以上にユーモラス。イギリスカラーが出ていて楽しく視た。

2019年2月に読んだ本まとめ

 芥川龍之介英米怪異・幻想譚

芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚

 

芥川が大学で教鞭を取った時期に学生のために原語教材として編んだアンソロジーからさらに厳選した20の“奇妙な味”の短編。芥川のコメントも巻頭に紹介されており、彼の感性の先取ぶりが分かった。ブラックウッドの『スランバブル嬢の閉所恐怖症』のユーモラスさ、当時の人種差別感覚をドライに味付けたアブダラー『ささやかな忠義の行い』が特に秀逸。

 

チェコSF短編小説集

チェコSF短編小説集 (平凡社ライブラリー)

チェコSF短編小説集 (平凡社ライブラリー)

 

 古典小編から始まり、現実の政治情勢を詳細に反映させた社会派の力作、メカニカルな描写とスピリチュアルが合わさったハードSFへと裾野が広がっていく。後半の充実ぶりは相当な読みごたえがあった。 

 

文藝別冊 萩尾望都

萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母(文藝別冊)

萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母(文藝別冊)

 

現役最高のキャリアと実力、評価を兼ね備える萩尾望都の幼少期の様子から現在の制作の状況、同業者との交流関係や作品の変遷までを網羅した一冊。巻末に掲載された幻想短編「月蝕」が繊細と巧緻を極めて掉尾を飾る。

2019年1月に読んだ本まとめ

退行の時代を生きる

退行の時代を生きる ―人びとはなぜレトロピアに魅せられるのか―

退行の時代を生きる ―人びとはなぜレトロピアに魅せられるのか―

 

 レトロピアとは、かつて在ったように語られる現在よりはマシな社会の姿を指した言葉だが、その一番の特徴は"実際には決して存在しなかった”というものだ。その二律背反ぶりにそれを希求する一部の人々の切なる願いが凝縮されている。著名なドイツの社会学者の最後の著作となったと後書きで知ることができるが、ただ惜しむらくは現状認識の段階に留まっているきらいが強いところだと思う。

 

革命とサブカル 

革命とサブカル

革命とサブカル

 

かつての大御所アニメーターであり現在はベテラン漫画家である安彦氏が、自身の全共闘世代という属性に真正面から取り組んだ姿勢を見せる対談集。かつての同志や旧友たちとの忌憚ない会話に、彼らのその時勢に激しく揺れ続けながらも仲間への心情や社会の行方への真摯さを保ってきた気持ちの熱さが垣間見えて、思わず背筋を正してしまう。また、アニメの流行の大系をテーマにした評論家の氷川竜介氏との対談では、氷川氏がこれまでになく断定的で切り込んだ観点でアニメファンの指向性を観察しており、いつものスタンスをこうまでイレギュラーにさせるのはやはり安彦良和という大天才への敬意なのだろうなと何やら妙に感じ入ってしまった。